「Bistro2538」を出たあと、傘をさしながらふらふら歩き、ふと聞いたことのある店に目が止まった。北千住には渋い居酒屋が数多いが、ここ「大はし」は創業明治10年という老舗、「みますや」や「鍵屋」と並んで、居酒屋の聖地のひとつと云って良いだろう。ただ、建物自体は老朽化し平成15年にリニューアルオープンしたらしい。その際、以前の建物の趣は極力変えないよう腐心したとのこと。たしかに、平成の造りではない。
東京三大煮込み(かの居酒屋探訪家:太田和彦が、その著書「居酒屋大全」の中で提唱した、北千住の「大はし」、森下の「山利喜」、月島の「岸田屋」の煮込み。まだ「岸田屋」は行ったことが無い。今度、行ってみようか)のひとつとしても、この店は有名。でも実際に食してみたら、存外、その牛煮込みは(肉どうふも)、「さすがに美味い!」とは感じられなかった。評判と噂の方が先行しているように思えるが・・・。
何を呑もうかと辺りを見回す。ここは、焼酎は「キンミヤ」、日本酒は「山形正宗」のみ。まこと、この店は硬派である。我々は日本酒の熱燗を頼む。奥の棚にはキープされた「キンミヤ」のボトルがずらりと並んでいて壮観。でも常連客が来ると、探しもせずさっとその人のボトルを取り出すところは職人芸だ。
かくこと左様に、ここの店員のひとり(若旦那?)は動きも機敏だが、しゃべりもやけに簡素化されている。客が来ても「いらっしゃい!」のうち「しゃい!」の部分はもう聞き取れない。客が帰るときに、会計を求められた場合の「おあいそね!」だったら「おあ」ぐらいしか云ってないように思える。満席で、入ってきた客を断る際は言葉も発せず、2本の人差し指で×の字を示すだけ。客も「ははー」と従うしかない。とにかく見ていて飽きない。注文したらなんて云ってくれるのか楽しみだったので、「アラ煮をください!」と云ったら、「あっ!」しか返って来なかった、と思う。果たしてそれが、「アラ、ね!」の「ア」なのか、「はいよ!」のうち「いよ」が抜けて、のこりの「は」の子音も落ちてしまったのか定かではなかった。まあ、それでも意図は伝わる。日本語は、実にいい加減で便利な言語と云えるのではなかろうか。
辺りも何気に見ていると、梅割り焼酎を呑むヒトが結構多いが、グラスになみなみ注いだ25度のキンミヤ焼酎に、ちびっと梅シロップをたらすだけ。ほとんど焼酎。それで一杯250円なのだから、肴をお通しだけで我慢すればセンベロ間違いなしである。
途中で気が付いたことだが、ここは店内撮影禁止なのだった(平にご容赦を)。でもせっかくだから張り紙に気が付かなかったふりをして、怒られるまで撮り続けてみる。アラ煮を撮ったところでとうとう件の店員からお咎めを受け、あえなく撮影終了。もうちょっと写真を撮らせてほしかったが、でも雰囲気に十分酔えたし満足できた。店員の職人ぶりにも感じ入った。次はどの聖地を巡礼しようか。

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