蔵前から浅草に出て、またぶらぶらする。浅草は今日も相変わらず外国人観光客でたいへん賑わっている。それを目当てに雷門前には車夫ばかり、五月蠅いほどいる。これだけの車夫が喰っていけるのであれば、車屋は浅草では一大産業になってきていると見える。人力車には一度も乗ったことは無いが、浅草の景色も違って見えるのだろうか。
景色の中で、つい目が行くのはやはり飲食店。浅草には日本料理屋、居酒屋が多いが、大衆食堂も多い。もちろん個人的には、いくら酒があっても酒の肴が充実していないと、大衆食堂には入りたくない気分だが、浅草の大衆食堂は呑ベエに優しい店が多い。浅草寺から浅草六区方面に抜ける「奥山おまいりまち」にもそんな店で気になっていた「君塚食堂」がある。
ぱっと見は、何処にでもありそうな店構え。でも創業は明治初期とのこと、見かけによらず超老舗なのである。「競馬中継」の看板があるのもこの辺りの店らしい。冷たい風が通り抜ける店先で、せっせとおでんを作っているおばあちゃんがいる。さしずめかつては看板娘だったのだろうと思われる。外は寒いので、店に入ったら熱燗でおでんかなと思っていても、店の中はポカポカなので、冷たいものでも呑もうかと云う気になる。そこでホッピー黒を注文。肴は(甘くない)玉子焼きと鯖塩焼き、そしておでんにした。どれも素朴な味だが、奇を衒わない安心して喰える味とも云える。おでんはどの具もしっかり味が染みていて美味い。おばあちゃんお奨めのウィンナー巻きは、驚くほど柔らかく煮込んである。たまにはホッピーでおでんも悪くない。
店内を見渡すと、常連らしい客が多いようだ。我々の後から来る客も、店員と丁寧な挨拶を交わす。皆、地元の人間なのだろうか。店の人とも長い付き合いなのかも知れない。もちろん、テレビ中継に熱中している競馬好きもいる。でも、歓声を上げたり溜息を洩らしたるりせず、静かに熱く見入っている。この店にも小さな人間模様が詰まっている。ほろ酔い加減ですっかり温まってから店を出た。表では、おばあちゃんが寒空にもへこたれず、くるくる動き回っていた。

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君塚食堂のHP: こちら